(時事)天皇陛下 生前退位について

2016-07-23

(時事)天皇陛下 生前退位について

7月14日の日本経済新聞朝刊に,天皇陛下が皇太子さまに天皇位をお譲りになる「生前退位」の御意向を示されていることが,宮内庁関係者の話で明らかになったとの記事が掲載されていました。約200年前の江戸時代後期に,光格天皇が生前退位されて以降,例がないそうです。
 
天皇制の歴史において,平安時代末期から鎌倉時代まで,天皇の父や祖父による院(太上天皇)による院政が行われた時期がありました。院政により皇位を退いた後で,政変に関わった上皇もいたという歴史的経緯もあって,旧皇室典範は天皇の生前退位を認めていなかったようです。旧皇室典範は,1889(明治22)年,大日本帝国憲法と同時期に制定されました。そのとき,伊藤博文らが,天皇の終身在位の仕組みを作りました。
現在の皇室典範を制定する際には,生前退位を認めない代わりに,天皇に代わって国事行為を行う「摂政」を置くことが定められました。皇室典範第16条第2項では「天皇が,精神若しくは身体の重患又は重大な事故により,国事に関する行為をみずからすることができないときは,皇室会議の議により,摂政を置く」と規定されています。この「重大な事故」の要件を,幅広く解釈するという考え方です。

 皇位承継については,皇室典範第4条に,「天皇が崩じたときは,皇嗣が,直ちに即位する」と定めがあります。つまり,皇位継承は,「天皇」が崩御された場合しか想定されていません。生前退位を実現するには,皇室典範を改正する必要があります。皇室典範は,法律の一種ですので,法改正は国会の決議があれば可能です。
しかし,「天皇」は,憲法において象徴的存在であると定められています。このため,生前退位という天皇陛下の御意向が政治的な発言とはならないか,それを受けて皇室典範を改正することが国政参加とならないかとの意見もあるようです。「天皇は,日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって,この地位は,主権の存する日本国民の総意に基づく」とする憲法第1条,「天皇は,この憲法の定める国事行為のみを行い,国政に関する権能を有しない。」とする憲法第4条第1項の定めがあるからです。
また,もし生前退位が可能となった場合,「天皇」が国事行為を委任できる(憲法第4条第2項)「摂政」を置くことを定めた憲法第5条と抵触するのではないかとの識者からの指摘もあります。そのため,皇室典範の改正ではなく,今回限った特別立法の形を取るべきではないかとの意見もあるようです。また,天皇陛下の御公務の御負担を軽減するように検討すべきであるとの意見もあります。一方で,政府与党内には,天皇陛下の御意向は尊重すべきであるとの声もあるようです。

生前退位が実現すると,どのような効果があるでしょうか。「皇位は,世襲のものであって,国会の議決した皇室典範の定めるところにより,これを継承する」とした憲法第2条,「皇位は,皇統に属する男系の男子が,承継する」とした皇室典範第1条の定めにより,次の天皇には,皇位継承順位1位である皇太子さまが,即位なされます。また,元号法第2条で,元号を「皇位の継承があった場合に限り改める」として,一世一元制を定めています。天皇陛下が,皇位を皇太子さまに継承された時点で,平成の元号から新たな元号に改められます。

 このように,生前退位とは,単に法律改正を行って制度を変えればいいという問題ではなく,天皇制の在り方や,象徴的天皇という日本独特の天皇制たる所以である歴史的過程を鑑みると,慎重な議論が行われることが望まれます。