日常生活の疑問(時効)債務者本人以外でも,時効を主張できますか

2016-06-21

日常生活の疑問(時効)債務者本人以外でも,時効を主張できますか

【質問】
 私は,知人のAさんに頼まれて,AさんがB社から継続的に仕入れをする際に必要だということで,宅地と建物を担保に入れました。3年後,B社は私が担保に差し出した宅地と建物について,競売手続を開始してしまいました。大事な財産を担保にとられたわけですから,私も,消滅時効を主張することはできないのでしょうか。

【回答】
 御質問の知人AさんがB社から仕入れをした際の売掛代金は,「商取引にもとづく債務」です。商行為による時効は,民法で定める債権の消滅時効の原則10年間ではなく(民法167条),原則5年で消滅時効にかかります(商法522条)。ただし,他の法令に5年より短い時効の定めがあるときはそれによるので(商法522条但書),生産者が売却した商品代価(民法173条1項)として2年で消滅時効にかかります。これを,短期消滅時効といいます。日常的な取引から生じる債権ですので,一つ一つは少額の場合が多いため,時効になる迄の期間が短いと思われます。

 Aさんの商行為により生じた債務について,Aさん本人は主債務者となります。あなたは,自分の宅地と建物に,B社のための抵当権を設定して,Aさんの債務を担保した物上保証人になります。物上保証人は,債務を負担しすることはない点で保証人とは異なります。しかし,主債務者が返済不可能となったとき,所有者として抵当に入れた不動産を手放さなければならない責任があります。

 つまり,債権者であるB社が,内容証明等による売掛金の請求など,時効の中断をする手続きをとっていなければ,主債務者Aさんの主債務は,時効により消滅します。すると,物上保証人であるあなたが設定した抵当権も,担保していた主債務である被担保債権(Aさんの主債務)が無くなったことにより消滅します。
 しかし,時効が完成したときであっても,時効の利益を受けたい人は,債権者に,時効の利益を受けるという意思表示,つまり時効の援用をする必要があります。今回,最後の取引が終了した後,2年が経過して消滅時効が完成しそうでも,消滅時効が完了する前にAさんがB社に対して時効を援用しなければ,時効とならずに債務は残ったままです。したがって,物上保証人であるあなたが設定した抵当権も消えません(民法457条)。

 すると,物上保証人であるあなた自身は,Aさんの債務について義務があるのに,Aさんの主債務についての時効の援用をすることはできないのでしょうか。誰が時効を援用できるのかについては「時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。(民法145条)」と定められているだけなので,当事者の解釈が問題となってきます。解釈は,民法学者や裁判所の判例により議論され,次第に認められた判断基準として確立されていきます。そして,判例で,判断基準として「時効によって直接に利益を受ける者」が,時効を援用できるとしました。物上保証人についても,現在の判例の立場では認められています(最判昭和43年9月26日)。主債務者の債務の時効が完成すれば,抵当権が実行されることは無くなるので,直接の利益があると言えるからです。

 また,もしあなたが物上保証人でなく保証人”だった場合は,主債務が主債務者の商行為により生じているときは,常に連帯保証人となります(商法511条)。連帯保証人は,連帯債務者に関する規定(民法458条)を準用しているので,主債務者について消滅時効が完成したときは,連帯保証人も義務を免れます(民法439条)。また,保証という債務自体も時効で消滅するので,保証人が自分で保証債務の時効を援用すればいいのです。それに,主債務が時効消滅したら,※保証の付従性という性質により,保証債務も時効消滅してしまいます。しかし,今回あなたは,B社との間で抵当権設定契約をむすんでいる物上保証人です。Aさんの主債務の消滅時効が完成していない場合,抵当権も消滅しません。抵当権は,主債務を担保する目的だから,単独で消滅時効にかかるのは無意味だからです。また,同様の理由から,主債務者や抵当権設定者は,抵当権そのものの消滅時効を援用できません。)

※保証の付従性・・・保証とは,主債務者の債務を担保するために,保証人と債権者の間で保証契約を締結するものです。主債務を担保する役割なので,主債務に従う従属的な性質があります。そのため,主債務が消滅すれば,保証債務も消滅します。