日常生活の疑問(時効) 時効について,教えてください

2016-06-16

日常生活の疑問(時効) 時効について,教えてください

【質問】
 私は,居酒屋のツケを支払うのを忘れていて,店主から請求されて全額支払いました。しかし,後で知人から「1年以上前のは,もう時効だから払わなくていいんだよ。」と言われました。時効になったら,どんな時も帳消しになるのでしょうか。

【回答】
時効(消滅時効)とならない場合も,あり得ます。
まず時効とは何かについて,時効には消滅時効と取得時効があります。なぜ,時効の制度があるのでしょうか。社会生活の中で,一定の事実状態が継続すると,様々な法律関係が生じてきます。そこで何かしら権利義務関係の存否の争いが生じても,時間の経過とともに,正当な権利関係を証明するのは困難となります。そのため,一定の事実状態が法律上の一定の要件の下に長期間継続したとき,その事実状態を権利関係として保護し,法律関係の安定を図る公益的な制度が時効制度です。例えば,債務者(借金の借主等)が実際に債務を弁済したけれど,昔の証拠が残っていないという場合に,時効が完成していれば,民法により保護されることになります。また,債権者(借金の貸主等)については「権利の上に眠る者は保護に値せず」と言われます。例えば,返済を請求したり等,法律上行使できる権利があるのに行使しなかったという事実は,民法では保護するに値しないと考えられているのです。

御質問の「時効」は,消滅時効のことをいいます。消滅時効とは,権利を行使できる者が権利を行使しないまま,権利を行使できるときから一定期間が経過したときに,時効によりその権利を消滅させることです。
消滅時効の対象となる権利は,債権と,所有権以外の財産権(地役権・地上権等)です。

消滅時効は,年月が経てば自然に消滅するというものではなく,主張するときには,時効の援用をする必要があります。時効の援用とは,時効により利益を受ける者が,時効の利益を受けるという意思表示を,相手に伝えることです。時効の援用を必要とされる理由は,実際には弁済していない債務者が,*消滅時効は完成したけれども,時効の利益を受けず,良心に従って弁済することを認めようという考慮からと言われます。従って,援用しない自由も認められています。
それでは,御質問にあるように,どんなときでも消滅時効であるとの主張,つまり時効の援用ができるのでしょうか。裁判において,時効の記算点や中断・停止の解釈によって回避できない不道徳な結論となりそうなとき,裁判官が一般条項(信義誠実の原則,権利濫用禁止の原則)を使い,消滅時効の援用を阻むことがあります。一般条項とは,民法1条で定められている基本原理であり,この条文を適用する際には,裁判官の広範な裁量が認められています。例えば「債務者が時効完成後に借受金元本の分割弁済を申し出た事案で,時効完成後における債務の承認は,時効の援用を認めないのが信義則に照らし相当」であるとした最高裁判所の判例があります(最判昭41年4月20日)。

*時効完成前には,弁済等の権利を行使するのではなくて,時効の利益を放棄してしまうことは認められていません。時効完成後に,時効の利益を受けないという意思表示(時効の利益の放棄)することは認められます。